2021.10.14
ウェイトトレーニング

上半身トレーニングを機能解剖学で考察してみる

こんにちは!
名古屋駅近くのパーソナルトレーニングジムGOODSUNPLUS名古屋店の杉浦です。
今回は、ボディメイクにおいての上半身トレーニングを機能解剖学観点からお伝えしたいと思います。
上半身のトレーニングでは、下半身と比べて骨格的な繋がりが弱い胸郭や肩甲骨を土台にして上腕や前腕の動作によってウエイトを移動させます。そのため各関節の各動作を安定させるのか、可動させるのか正しく区別することが怪我のリスクを抑えトレーニングの成果を出すために重要です。

【目次】ご興味のある記事からお読みください
1.上半身の各関節のモビリティ、スタビリティ(可動性、安定性)
2.ベンチプレスにおける関節動作
3.胸郭のモビリティと呼吸の重要性
4.背中のトレーニングでの呼吸
5.上半身のトレーニングの選択
6.効果に大きな違いが出る手幅
今回のまとめ

1.上半身の各関節のモビリティ、スタビリティ(可動性、安定性)

 下半身のトレーニングのブログでも書いたように、各関節には大きな動作に向いたモビリティ関節と向かないスタビリティ関節があります。(joint by joint approach)

 1-1.上半身のトレーニングで主に使われる関節

上半身のトレーニングで主に使われる関節は胸椎、肩甲胸郭関節、肩甲上腕関節、肘関節です。join by joint approachによるとこれらの関節は以下のように分類されます。

胸椎 モビリティ関節
肩甲胸郭関節 モビリティ関節/スタビリティ関節
肩甲上腕関節 モビリティ関節
肘関節 スタビリティ関節

以上のように肘関節以外はモビリティ関節としての役割が求められ、肩甲骨周辺の関節は非常に可動性が高いことがわかります。トレーニングの動作ではこれらの関節のうち鍛えたい関節だけを可動させ、それ以外の関節を安定させる必要があります。
元々可動性の高い関節を安定させるのは簡単ではありませんが、肩甲骨周辺のモビリティ関節であっても安定させることは出来ます。

全身の関節はjoint by jointにおけるモビリティ関節、スタビリティ関節の分類に関わらず、可動しやすい角度、安定しやすい角度が各平面上にあります。
可動しやすい角度は素早い大きな動作に、安定しやすい角度は大きな力を発揮する小さい動きに向いています。

1-2.関節運動について

各関節は概ね以下のように動くことでそれぞれ可動しやすい角度、安定しやすい角度になります。
・可動性が増す関節運動
屈曲、外転、内旋、回内、前傾
・安定性が増す関節運動
伸展、内転、外旋、回外、後傾、※屈曲
※腰椎のみ主なスタビライザーがIAP(腹腔内圧)であるため、屈曲でも安定性が増す。

下半身の運動では地面に立って身体を支えるために股関節の少なくとも一つの平面では安定しやすい角度をとる必要がありますが、投擲動作などの上半身の運動では動作のあとに身体を支える必要がないため、全ての平面で可動性の高い関節の角度をとることがあります。それに対してトレーニングの動作ではウエイトを挙上したあともウエイトを受け止め続けるため、一部の関節では安定した角度を取り続ける必要があります。そのため上半身のトレーニングをする際は、どの関節を可動させてどの関節を安定させるのか十分理解して行う必要があります。

2.ベンチプレスにおける関節動作

それでは上半身の代表的なエクササイズであるベンチプレスでは肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節、胸椎がそれぞれどのように可動、安定しているか見ていきます。

2-1.肩甲上腕関節の動作

挙上時は水平内転(安定)、屈曲(可動)、内旋(可動)が起こります。
下降時は水平外転(可動)、伸展(安定)、外旋(安定)が起こります。
水平内転、水平外転だけが他の面上と異なる動きをしていることからも、ベンチプレスでは特に水平内転に負荷をかけるエクササイズであると読み取れます。

2-2.肩甲胸郭関節の動作

肩甲胸郭関節は肩甲骨のより大きな面積で上腕骨を支えるために肩甲上腕関節と同じ方向の動作をします。
挙上時は外転、挙上、上方回旋が起こります。
下降時は内転、下制、下方回旋が起こります。
ここで注意したいのは骨格の動作(例:肩甲骨が内転する)と状態(例:肩甲骨が内転位である)を区別することです。

肩甲骨は特に肩甲上腕関節周辺のモーメントアームが長くなるボトム付近で最大限安定してウエイトを支えるために以上に挙げた様な動作は最小限で内転、下制位下方回旋位をほぼ保ちます。

トップでは安定性がやや不足するかもしれませんが、モーメントアームが短いため要求される力発揮自体が小さくなります。また、肩甲上腕関節の動作に注目しても水平外転はほぼ最大であるのに対して、水平内転は上腕同士が平行より手前までしか起きません。そのことからも外転、挙上、上方回旋は内転位、下制位、下方回旋位を保てる範囲内で差し支えないことがわかります。

2-3.胸椎の動作

胸椎、肋骨、胸骨が成す胸郭は肩甲骨の土台として肩甲骨の動きを助けます。肩甲骨は胸郭の上をスライドするように動くと考えると直感的に理解しやすいでしょう。

胸郭が屈曲することで、胸郭背面(胸椎側)が凸になり肩甲骨が外転、挙上、上方回旋しやすい状態になります。胸郭が伸展する事で、胸郭背面が凹になり内転、下制、下方回旋しやすい状態になります。
ここでもベンチプレスの際は安定してウエイトを支えるために伸展位でほぼ固定されます。

以上の様に、ベンチプレスでは胸椎、肩甲胸郭関節を安定させたまま肩甲上腕関節だけを可動させることが重要になります。

3.胸郭のモビリティと呼吸の重要性

ベンチプレスを例に上半身のトレーニングで正しく動作するためには各関節のモビリティ、スタビリティそして正しい呼吸が重要だという事がわかりました。
ここで言う正しい呼吸とはパラドックス呼吸からの脱却とZOA(Zone of Apposition)の獲得を指します。

3-1.パラドックス呼吸とは

パラドックス呼吸とは、吸気とともに胸部、腹部が膨らみ、呼気とともに胸部、腹部が縮む本来の動きが崩れていることを言います。
よく見られるパラドックス呼吸は横隔膜などの呼吸筋の過活動のため常に吸気した状態で、吸気時に更に吸おうとすることで腹部が凹み胸が膨らみ、吸気した状態で固定されているため息を吐き切れない状態です。

3-2.ZOAとは

ZOAとは横隔膜が正しく働くためのドーム状の可動範囲のことです。
ZOAを獲得するためには特に腰椎、胸椎のモビリティが重要です。

3-3.モビリティ改善

モビリティ改善のためには主に、腰椎と胸椎下部の伸筋群の抑制と屈筋群の活性化、胸椎上部の伸筋群の活性化、屈筋群の抑制が求められます。
どのモビリティエクササイズでも呼気とともに関節を屈曲していき、吸気とともに関節を伸展していきます。呼吸と屈曲伸展が不一致なパラドックス呼吸ならぬパラドックス”動作”にならないように注意します。
モビリティエクササイズの順番としては、近位の腰椎、胸椎下部の屈曲エクササイズから先に行い、遠位の胸椎上部の伸展エクササイズを後に行います。順番が逆になってしまうと、腰椎、胸椎下部の屈筋群が活性化されないまま胸椎上部を伸展することになり、腰椎、胸椎下部の過伸展がある場合はそれを助長する事になりかねません。

上記のベンチプレスの動作からもわかる通り、多くのストレングストレーニングは屈曲よりも伸展の可動域が大きく使われます。そのためモビリティエクササイズでは吸気とともに伸展することも大事ですが、呼気とともに屈曲することも重視しましょう。

4.背中のトレーニングでの呼吸

背中のトレーニングでは胸郭の動作に合わせると、吸気とともにウエイトを挙上し、呼気とともにウエイトを下降させることも考えられます。
確かにそのように動作することで胸郭の動きと呼吸を一致させることが出来ますが、胸郭よりも近位の腰椎を過伸展するリスクが高まります。

近位の腰椎の安定性を優先させつつ、胸郭の安定性も最低限確保するためには吸気した状態から呼吸を止めて動作するバルサルバ法を採用するか、吸気した状態から僅かに息を吐き出しながら動作することが勧められます。

腰椎を安定させるために胸椎の動作とは不一致な呼吸をすることからも背中のトレーニングはパラドックス呼吸を助長しやすいことがわかります。
ストレングストレーニングと並行してコレクティブエクササイズも欠かさず行いましょう。

5.上半身のトレーニングの選択

 上半身のトレーニングは水平面上でのプッシュ、プル動作、前額面上でのプッシュ、プル動作が主になります。
各エクササイズは動作の平面、方向だけでなく、どのように安定性を確保しているかという点でも分類することが出来ます。

5-1.エクササイズの特性

水平面上の代表的なエクササイズであるベンチプレス、ロウイングでは肩以外にも安定性を頼っています。ベンチプレスであればベンチに、ロウイングであれば腰椎、股関節、マシンのパッド等です。それに対して前額面上の代表的なエクササイズであるオーバーヘッドプレス、プルアップでは肩が可動性、安定性の両方を担っています。
どの平面上の上半身のエクササイズであっても肩の安定性がボトルネックにならないことが漸進的に過負荷をかけていくうえで必要ですから、肩の安定性向上も期待できる前額面上のエクササイズも取り入れ、水平面上のみにパターンスタックしないことが重要です。

5-2.肩の安定性

オーバーヘッドエクササイズ以外にもプッシュアップ、ディップス、インバーテッドロウなどの四肢の末端が固定されたCKCエクササイズ、主に下半身の可動によってウエイトを挙上するトレーニングであるものの、肩の安定性も大きく求められるデッドリフトも肩の安定性に貢献します。
安定性を欠いた状態で上半身のトレーニング(特にプッシュエクササイズ)を行うと、インピンジメントや上腕骨頭の前方滑りを引き起こす可能性もあるので、安定性の獲得は非常に大切です。

上半身のトレーニングでは、要求される安定性の相対的低さ、使用重量の大きさから水平面上のエクササイズから導入することが多くなりがちですが、モビリティに問題がなければオーバーヘッドのストレングストレーニングを取り入れたり、それが難しい場合でも上記の肩の安定性に寄与するトレーニングやオーバーヘッドのモビリティエクササイズを積極的に取り入れていくべきだと考えます。

6.効果に大きな違いが出る手幅

上半身のトレーニングでの手幅はトレーニングを手段(筋肥大、筋力アップ、パフォーマンスアップetc.)として行うのかそれ自体を目的(使用重量向上、パワーリフティングの競技力向上etc.)とするかによって異なります。

ここでは手段としてのトレーニングを考えます。手段としてのトレーニングの場合、鍛える筋肉の収縮力がウエイト(バーベル、ダンベル等)に対してより大きい仕事量をすることが重要なため、対象筋の収縮力によってより高重量のウエイトをより長い距離鉛直方向に移動させられるフォームを追求します。

そのためウエイトの重量は増したが鉛直方向の移動距離が短くなったり、ウエイトの鉛直方向の移動距離は長くなったが重量が減るフォームはより大きな仕事量を行うためには非効率だと言えます。

上半身のトレーニングにおける手幅は対象筋が行う仕事量を決める重要な要素です。手幅を変えることで関節周辺のモーメントアームの長さが変化して、仕事量を決定するウエイトの重量と鉛直方向の移動距離、両方が変化するからです。

それでは、ベンチプレスを例にどんな手幅が大胸筋に最大の仕事量をさせる目的に適しているか考えていきます。肩関節の周りのモーメントアームが最長になる上腕が地面と水平になる高さで手幅を変えて比較します。
この時、手幅に伴って変化するのは主に肘関節にかかるモーメントアームの長さ、バーベルの移動距離です。

6-1.前腕同士が平行になる手幅よりも広くしていく

手幅が広くなるにつれて肘関節のモーメントアームの長さが大きくなり使用重量も小さくなっていきます。バーベルの移動距離も小さくなっていきます。

6-2.前腕同士が平行になる手幅

この手幅では肘関節のモーメントアームの長さが0で最短になるため、扱える重量は最大になります。バーベルの移動距離は最大ではありませんが、肘関節周辺の筋肉が行う仕事量に対する肩関節周辺の筋肉が行う仕事量の割合は最大になります。

6-3.前腕同士が平行になる手幅から狭くしていく

手幅が狭くなるにつれて肘関節のモーメントアームの長さが大きくなり、使用重量も小さくなっていきます。バーベルの移動距離は長くなっていきますが、肩関節周辺の筋肉が行う仕事量に対する肘関節周辺の筋肉が行う仕事量の割合も増えていきます。

以上から、ベンチプレスにおいて大胸筋に最大の仕事量をさせるのに適した手幅は上腕が地面と水平になる高さで前腕同士が平行になる手幅だとわかりました。
他の上半身のトレーニングでも対象となる筋肉に最大の仕事量をさせる手幅で行うようにしましょう。

今回のまとめ

様々な上半身のトレーニングから個人のモビリティ、スタビリティに合ったトレーニングを処方し、各トレーニングを骨格に合わせて適切なフォームで実施することは簡単ではありません。
遠位の肩甲上腕関節が可動するためには近位の肩甲胸郭関節、胸椎に充分なモビリティ、スタビリティが必要です。そして胸椎、肋骨、胸骨が作る胸郭は呼吸と共に屈曲伸展を繰り返すため、胸郭の動作の土台として、横隔膜に代表される呼吸筋が正しく働くことが重要になります。
上半身のトレーニングに必要なモビリティ、スタビリティの評価、適切なコレクティブエクササイズの処方は是非GOODSUNPLUSにお任せください!

GOODSUNPLUS 名駅店 杉浦

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